農業の担い手不足

東日本大震災後、若林区の農業は大規模化・法人化へと舵を切りました。しかし、10年先を見つめたとき、地域農業の今後には課題が残されています。

震災からの立ち直り、その一方で

  東日本大震災による津波は、農業機械や家を押し流し、農家が先祖代々守って来た農地には大量の海水とガレキが流れ込みました。津波が奪っていったのは農家の生活だけではありません。彼らは大切な家族、友人、仲間を失ったのです。

 全国のボランティアの協力により、ガレキは撤去され、なんとか農地は営農が再開できる状態になりました。しかし、農家は震災によってゼロからの立て直しを迫られます。数千万円する農機具が津波によって流され、再建を諦める農家は少なくありませんでした。

行政が描く大規模化と法人化

震災前の航空写真
震災後の航空写真

震災後、行政は

・大規模農業の推進とそのための圃場整備
・農業の法人化と6次産業化

を推し進めていきました。若林区は広くて平らな土地が広がっており、農業の法人化が成功しやすい土地として、最先端の大規模農業を目指したのです。
左の航空写真を見ると、一つ一つの圃場の面積が大きくなっていることが見て取れます。

参照:
農と食のフロンティアゾーンの提案
仙台市農業施策基本方針
仙台市地域農業基盤(人・農地プラン)

 一方、行政の政策だけでは解決できない農業問題が存在します。

法人化の抱える問題点

1.経営能力で格差が起きる

法人化する場合、生産から販売までを考えるだけでなく、複数人をまとめるマネジメント能力が問われることになります。また、もともとの資本的な規模にも左右されることになります。

2.組織運営がうまくいかない

従来の会社とは異なり、農業の分野で法人化が推進されたのは近年のことであり、組織を安定して運営する組織マネジメントは普及していません。そのため、個人農家が寄せ集まった法人では、組織マネジメントがしっかりしていないと、分散したり、対立を生んでしまうことになります。

3.後継者がいない

法人に入った人がみんな跡継ぎになろうと考えているとは限りません。また、後継者には農業技術と、更には経営技術が必要になります。ベテラン農家は、若手を労働力としてでなく、経営者として育てなくてはなりません。

地域ごとの分析

七郷

 農協のサポート・独自の販路形成・六次化をするなど特徴ある経営を行う。稲作が盛んなので機械が導入しやすい。3/5の法人に若手や跡継ぎがおり、地域農業の持続は可能

六郷

畑中心の農業を営んでおり、野菜栽培の技術はとても高い。一方で、畑作は機械が導入しにくく、法人化も一部しか進んでいない。後継者不足が深刻で、農業が途絶えてしまう可能性がある

まとめ

震災後、地域農業の復興を目指し、地域農家が立ち上がりました。そして行政によって主導され、多くの法人が設立されました。しかし、そうした法人の約半数が生き残らず、農業の持続に強い不安が残る地域も存在するという現実があります。これで若林区の農業は「復興」したと言えるのでしょうか。